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ふるがる

偏在的放棄性脱力癖を誘発する二次創作ブログ

2021/10/03

DAHUFAという映画、暴力的傑作

DAHUFA-守護者と謎の豆人間-という中国のアニメ映画を見ました。
本当は9月に見たかったのですが、存在を知った時には大阪での上映がすでに終わっており、心斎橋での上映が始まるまでずっと待っていました。やっと見れたので感想を書きます。個人的に刺さりまくる暴力的傑作でした。ネタバレしかしません。

キレッキレの色彩センスで描かれた美しいイラストに反して波乱を予感させる音楽が流れるオープニングが、もう名作のオーラをビンビン漂わせていましたね。と思いきや開始10分以内に主人公が豆人間を2人殺した!!!なんてことだ!!!
その後もゴールデンカムイばりのノータイム躊躇いで主人公がスパンスパンとリズミカルに人を殺すし、敵もそんなのばっかりで、処刑執行人が彷徨く村で部外者のダフファーは普通に殺されかけます。治安がクソみたいに悪い千と千尋かな?と思いました。
豆知識。これは知乎に書いてたので知ったことなんですが、執行人は青い服を着たほうが銃を使う遠距離型で、黄色い服を着たほうが斧を使う近距離型ですが、彼らが持っている斧がファスケスといって、これがファシズムの語源であり象徴なのだそうです。意味深なモチーフと隠喩に満ちた映画だとは思っていましたが、こんなモブが持ってる武器にまで忍び込ませてあるとは……。脱帽。

とにかく銃撃戦の緊迫感がすごい映画でした。地形を利用したり引っ掛けを多用したりリロードの隙を狙ったり、ダフファーがものすごい手練れ。
ダフファー、皇太子を守れないかもしれないのが不安で号泣するわ敵に追われる悪夢を見るわ、皇太子とも対等に口喧嘩するわで情動も見た目も子どもそのものなのに、殺し合いに関しては全くのプロの振る舞いをしていてこわい。すげえキャラクターだ……。でも村の居住区で光弾ぶっ放すのはどうかと思うよ。
対する殺し屋・羅丹も強敵でしたね。あいつ、豆人間と違って無駄弾を撃たないんですよね。射程距離と遮蔽物で当たるか当たらないかの判断が執行人たちよりシビアなので、そこが一枚上手な表現になっていました。
会話シーンの口の動きよりも、頭を撃たれて脳汁が飛び散る描写に枚数を割く映画は名作。

サブキャラの殺しへの葛藤をねっとり描くところも良かったですね。感情を持つ生き物として豆人間を見ていなかった解体人マオが実情を目にして、嘔吐しながらも殺しへの覚悟が決まってってレベルが上がっていくのが目に見えて、過程が妙に生々しかったです。
その後に心が折れかけても、ダフファーの激励を受けて再度奮起して理想を掴み取る描写は感動的でしたね(ものは言いよう)。いやホントにあのシーンの露悪的な達成感、私ああいうの大好きです。見ててニヤニヤが止まらなかった。
最後の決闘も渋かった。ダフファーは作中ずーっと独り言を言うほどに基本的にお喋りで、決闘時も煽りまくってたのに対して、羅丹は最期の一言以外セリフがないんですよね。対照的なふたり、無情な殺し屋同士、彩が言うように分かり合えたのかもしれないのに殺し合う定め……。暴力の美学……。ハードボイルドだなぁ……。
余談ですがここのシーンの「恐怖に向き合う勇気がないのか!?」ってセリフ、予告編であたかも暴力描写に引く視聴者を煽るかのような使われ方をしていたのが印象に残っています。あの予告編作った人はセンスがすごくいいと思う。ラデツキー行進曲に合わせてリズミカルに脳汁がはじけ飛ぶ映像の明るく楽しい露悪趣味、大好き。

豆人間たちの正体は、頭の中にできる石が強力な幻覚剤になるので、その収穫のために栽培される蟻猿(蛹になるまでの形態をそう呼ぶ)でした。蟻猿は幼体であると同時に、蛹から孵って成体になった豆人間たちの食料でもあるので、彼らは知らないうちに共食いをさせられています。エグい設定だなぁ……。
彼らの中で恐ろしい疫病とされるキノコ病は、実際は成体になって石が熟したしるしであって、不治の病ではないのですが、収穫のために病にかかったものは殺されます。表向きは病の蔓延防止のためとして、市民間で相互監視環境が築かれ、執行人が彷徨く閉鎖的な村になっていたのでした。
ここで疑問がひとつあって、「成熟の証としていつかみんなキノコ病の症状が出るなら、それを病気として設定するのは無理がないか?」と思ったんですが、秋になると収穫期が来てみんな死ぬとの吉安のセリフがあったことから、豆人間は成体になってからは一年の命なのかな?と考えました。キノコ病が蔓延しきれば結局は皆殺しにしてその年代をリセットするので、病気ではないことがバレても問題ないんですね。隠婆、よく生き延びたなぁ……。となるとたぶんミンを兄と呼ぶ風車の子も一年交代式かな。そりゃあミンが豆人間を家畜として認識するわけだ。納得。
豆人間たちは抑圧される下層階級民なので、押さえきれない自由への欲求からやがて体制側に叛旗を翻すことになるんですけど、それがサブストーリーな感じの描写をされていて結末ははっきりとは描かれなかったんですよね。煙が焚かれなくなったから村に降りた女王を殻から出して、隠婆が生き残ってるから彼女を啓蒙役にして新しいコミュニティを築いていくんだろうなーとは思いますが、あくまで視聴者の想像に任せる的な終わり方。
(でも喋らない豆人間を執行人が撃ち殺して回ってるあたり、トップがすげ変わっただけでファシズム的体制自体は変わらなさそうですよね……そういう管理の仕方しかされてないからそれ以外知らないもんね、仕方ないね)(閑話休題)
あとは羅丹と彩の関係性が全くわからないこともあって、プロットに消化不良な点が多い的な評価につながってたのかなと思います。Twitterとか知乎とかでちょいちょいそういうの見かけた。主人公の正体さえ、皇太子はおろか本人ですらわかってないままでしたしね。
でも、私的には、あくまで本筋は暴力と殺戮の饗宴なところがすっごく良くってぇ……うっとりしちゃった。自分探しとかぜんぶ丸く収まる革命とかそういうの欲しけりゃハリウッド映画とか見てろって思うし、私が予告編でこの映画に求めてたものは悪趣味なアクションなんですよ。予告編の期待を裏切ることなく人体破壊描写をガッツリ見せ続けてくれたことに感謝しかない。

真面目な話をしますと、この映画の大きなテーマは「自分は何者か?の悩み」で、その答えは「自分が何者かの答えより、自分で何を成すかのほうが大事」なのかなあとも思います。ダフファーが現皇太子の4代前から国を守り続けながらも、自分の存在と魔法の力(電撃系統なのかな)の正体がわからないままなこと。ジャンが自我に覚醒しても隠婆以外にはそのことを他人に隠し続け、それでも皇太子を助けた優しさ。豆人間の感情を知ったマオの揺らぎ。王になることを拒否し続けながらも、最後は国に戻る皇太子。神仙を名乗りながら、実際は先祖代々続く家業である豆人間栽培にプライドが依存しているだけの吉安、等々。でも視聴者的には、そのキャラが誰なのかよりも、キャラクターがどんなことをしてどうストーリーが転がっていくかのほうが大事だったりしますからね。人間とは何なのかとか生まれた意味とか、考えすぎて立ち止まるほどの価値がある悩みじゃないのかもしれません。
サブテーマとしては「人が他人の心を察しないことの寓話」かなぁ……。殺される恐怖に震え、涙を流す感情があるのに家畜扱いされる豆人間への処遇もそうですが、小さいところでは白い鳥がダフファーをちょいちょい守ってるのにダフファー本人は気付かないこととか、皇太子がミンの話をうまく受け止めきれず、ミンを子ども扱いしてると本人から指摘されて初めて気付くところとか。大なり小なり他人を気付かないうちに矮小化し、あるはずの心を見過ごしている。

2回目見て気づいたこと。
物語序盤で羅丹と彩と吉安が話すシーンで、羅丹がドアの外にいた執行人を殺していますよね。あれ何で殺したんだろうと思っていましたが、終盤で逃げるジャンと隠婆を喋る執行人が助けているので、執行人の間ではとっくに自我に目覚めた者たちが結束しているんですね。序盤からすでに執行人たちには革命を決行するつもりがあって、吉安を暗殺しようとして羅丹に阻止されていたという。これ、皇太子とダフファーが来なくても、近いうちに支配体制崩れてたんじゃないかな……。
ミンが自分と幻覚剤を皇太子に売り込みに行ったのも、それを察してのことだったんですかね。あの子ども怖いよぉ……。最初ジャンが捕まったって言ったのも、用心棒であるダフファーから武器を奪って無力化して、皇太子に自分の要望を通しやすくするための虚言ですよね。いつから策練ってたんだよぉ……。怖いよお……。

陰謀渦巻き脳汁が飛び散る血生臭い話のなかの唯一の清涼剤、ジャンと皇太子との友情は本物でしたね。
エンディング曲のうちのひとつ「不说话」リンク貼らせてもらいましたが(エラー出てるから各自でリンク飛んでください)、これ歌詞の内容がジャンと皇太子そのままじゃん……。泣くわこんなん……。本筋が暴力と殺戮の嵐なくせに、こんな湿っぽくて暖かい関係性も存在するの残酷すぎる。視聴者の心もバラバラにしたいのか?
本当は喋れるのに隠婆以外には秘密にしないといけなくて、誰も信用しないよう言い含められて生きてきたジャンが、皇太子に助けられてその恩を返すうちに、優しさが彼の自我の核となったんだろうなと思います。もともと持っていた優しさを、実際に誰かと与えあい、互いに信頼しあえる関係性を築くことでますます育てていったようなイメージです。自分たちを殺してきた敵である吉安さえ殺されないように逃がそうとするほどの慈悲。そのために憎悪の黒魔石が実らずに、澄んだ空色の石が形見として皇太子の手の中に収まる構図、美しすぎる……。書いてて泣けてきた。
もしかして豆人間たち、監視社会で抑圧して育てなければ、優しく温かな環境で育てれば人の心を癒す妙薬が収穫できたのでは……?善にも悪にもなれる存在……?そんなことってある……?まあそんなユートピアな環境作れるなら人間社会でとっくにやっとるし、最終的には豆人間を殺して頭をほじくらないといけないわけで、ユートピアに住む人間はそんな残酷なことするか?って話になりますけども。話が妄想方面に脱線した。
曲自体も大好きになりました。優しいボーカルと、染み渡るように響くピアノとアコギの落ち着いた旋律が、語り合えずとも深まった二人の友情の純粋さを表現しているように聞こえます。
エンディングで、あの赤い手巾を巻いた蟻猿がいるのがもう……もうね……。何も言えない……。切ない……。

歌詞の意味がグーグル翻訳だけだと分かりづらいので、英語でカバーしてくれてる方がいるの助かる。

あとあのー、中国版題名と同名のイメージソングがあって、それに合わせたMVもあるんですが、許諾とってなさそうな動画しかようつべに上がってないのでリンク貼れないですね……。ニコニコに有志の和訳付きで上がってるのを見ました。こっちの歌詞はダフファーらしく、いかにもハードボイルドなかんじです。アップテンポかつちょっぴりダークな曲調がかっこいいのでおすすめです。(非公式で見ておいて何ですが)(いや合法的に見せてほしいのはやまやまなんだが?)

あぁ、円盤を手元に置いておきたい名作映画だったなぁ……。DVD化しないかなあ……。今のかの国の規制について、ちょこっと日本に流れてくる情報を見るだけでも、作品の展望に期待を持てないような気がしてしまうんですよね。それでも、と願わずにはいられないです。もしDVD化したら買います。ブルーレイでもいいよ!
と思ったのですがこの映画、公開は2017年で、しかも続編が今年発表されてるんですね。うおーーー!!!見たい!!!!!見たいが、日本でも見れるかなぁ……。見れたらいいなぁ……。
優れたクリエイターが優れた作品を作り続けられる世界でありますように。
感想はこのへんで終わります。それではさよーなら。

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